値上げを決めたのに、お客様に言い出せない会社がある

中小企業の現場では、こんな場面があります。

仕入れの値段が上がり、社長は値上げを決めます。営業担当には「来月から価格を改定する」と伝えます。

営業担当は、長く付き合っているお客様の顔を思い浮かべます。口から出てくるのは「原価が上がってしまって、すみません」の一言だけ。結局、何社かには、これまでの価格のまま見積書を出してしまいます。

社長は値上げしたつもりで、現場はまだ値上げできていない。

値上げを言い出せないのは、お客様が怖いからだけではありません。自社がなぜ選ばれているのかを、言葉で説明できないからです。

失敗1:「原価が上がったので」だけでは、お客様には会社の都合にしか聞こえない

値上げの理由が「うちのコストが上がったから」だけだと、お客様の側に得なことが何もありません。

お客様から見れば、同じものが高くなっただけです。そうなると、他社の見積もりを取ろうという気持ちが自然に動きます。

値上げの説明には、お客様にとっての意味が必要です。納期が守られていること、急な相談に応じてくれること、品質が安定していること。お客様が実際に助かっている点を、一緒に伝えられるかどうかが分かれ目になります。

たとえば、急ぎの注文に翌日対応してくれる会社なら、その手間や費用は、お客様が助かっている部分です。そこに値段がついていないまま原価の話だけをすると、値上げの話ばかりが目立ってしまいます。

失敗2:説明が担当者ごとに違うと、いちばん言い出しにくい人から値引きに折れる

値上げの説明が人によって違う会社では、強気に話せる担当者は通り、遠慮がちな担当者は押し切られます。

お客様同士は、意外とつながっています。「あの会社は、うちには値上げしなかった」という話が出ると、他のお客様にも広がります。

結果として、いちばん言い出しにくい担当者の取引先が、いちばん安い価格のまま残ります。

価格の話は、担当者の腕の差になりやすい部分です。だからこそ、会社として同じ一文を持っておく必要があります。

失敗3:誰に値上げしてよいか決めていないと、全員の顔色をうかがうことになる

3つ目は、全員を同じ重さで心配してしまうことです。

すべてのお客様に値上げを伝えようとすると、「一社でも離れたらどうしよう」という不安が勝ちます。そして値上げそのものが、また先送りになります。

実際には、お客様ごとに事情が違います。自社の対応を高く評価している先もあれば、とにかく安さだけで選んでいる先もあります。

安さ、対応の速さ、品質のどれで選んでいるかによって、響く言い方も変わります。同じ言い方で全員に伝えると、うまくいかない先が出てきます。

どの先にはどんな順番で伝えるか。この判断がないまま進めると、全員への説明が中途半端になりがちです。

値上げの前に、お客様3社に「うちを選んでいる理由」を聞き、案内の一文にする

値上げの前にできる確認は、むずかしくありません。

付き合いの長いお客様を3社選び、こう聞いてみてください。

「うちに頼んでいただいている理由を、教えてもらえますか」

答えは、社内で思っていたものと違うことがよくあります。安さではなく、対応の速さだった。品質ではなく、細かい相談に応じてくれることだった。

3社の答えに共通する言葉があれば、それが自社が選ばれている理由です。次の3つを入れて、値上げの案内を一文にまとめます。

- お客様に助かっていると言われている点
- そのために、いまかかっている費用や手間
- いつから、どのくらい変わるか

この一文を、営業全員が同じ言葉で言えるようにします。紙に書いて、声に出して読み合わせるだけでも、担当者ごとのばらつきは減ります。

選ばれている理由を言えない会社は、値上げを説明できず、値引きの交渉に負けやすくなります。

値上げの進め方は会社ごとに違う。ただ、選ばれた理由をそろえる作業は先にできる

いつ、どのお客様から、どのくらい上げるかは、業種や取引の条件によって答えが違います。契約内容に関わる部分は、取引先との取り決めや専門家への確認も必要です。

HITOTASUが一緒に見るのは、その手前にある、選ばれている理由を言葉にして、営業の説明をそろえる部分です。自社だけで整理しにくいときは、一緒に整理する方法もあります。そのあと、現場で実際に値上げが伝わり、成果が出るところまで進めることもできます。

付き合いの長いお客様に「うちを選んでいる理由」を聞いたら、社内の誰もが同じ答えを想像できますか。