融資の相談は、いつも「いくら借りるか」から始まる
「来月の運転資金が少し心配で、銀行に相談しようと思っている」
経営者の方との会話で、こういう言葉が出ることがあります。
最初に話題になるのは、たいてい金額です。いくら必要か。いくらなら借りられるか。
ただ、金額の前に決めておきたいことが2つあります。何に使うか。そして、何から返すか。
足りなくなるまで借りない、という判断は堅実に見えます。けれど、手元が細ってからの相談は、使い道を考える時間がないまま始まりがちです。
中小企業の現場では、こんな場面があります。
社長が「設備を入れ替えたいので、銀行に相談してくる」と出かけます。現場のリーダーは、その設備がいつ入るのか、入ると何が変わるのか、聞かされていません。
面談で「導入後の受注の見込みは」と聞かれ、社長は営業に確認していなかったことに気づきます。
社長は資金の話をしていて、現場は仕事の話をしている。借りる前に、この2つがつながっていません。
使い道が「運転資金」の一言で済んでいたら、3つのサインが出ている
「運転資金」「設備資金」は便利な言葉です。ただ、一言で済ませると、中身を誰も説明しなくなります。
現場に出やすいサインは、次の3つです。
- 借りる理由が、「運転資金」の一言で社内に伝わっている
- 借りたお金で買うものや雇う人の担当者が、何のためかを知らない
- 返済額は決まっているが、返すお金がどの仕事から出るのかを、決めている人がいない
借りた理由を現場が知らないと、返済は社長ひとりの仕事になります。
3つ目が、いちばん見落とされます。返済日は毎月来るのに、返す原資を誰が受け持つのかは、どこにも書かれていないからです。
返済の出どころは、決算書より先に、来月の現場の動きの中にある
返済の出どころを決算書の数字だけで説明しようとすると、「利益が出ているから大丈夫」で止まります。
けれど返済は、これから先の受注と、現場の動きから出ていきます。
営業が取る受注。現場が回す稼働。事務が進める請求と回収。借りたお金が成果に変わるのは、この流れのどこか1か所です。
そこを説明できるかどうかが、借りる前の準備になります。
数字そのものより、数字が動いた理由を説明できることが、金融機関とのやりとりに影響する、という指摘もあります。
説明できる状態は、決算書をきれいにして作るものではありません。営業・現場・事務の言葉をそろえて作るものです。
借りる前に、3行を書いて、3人に聞く
今日できる確認は、紙1枚で足ります。
次の3行を、自分の言葉で書いてみてください。
- 1行目:借りるとしたら、何に使うか
- 2行目:それで、何が、いつ変わるか
- 3行目:変わった分から、毎月いくら返せるか
2行目は、「新しい設備で、月の受注を何件さばけるようになるか」「採用した1人が、何か月目から売上に関わるか」のように、数えられる形で書きます。
次に、営業のリーダー、現場のリーダー、事務の担当者に、1行目だけ聞いてみます。
「もし今回お金を借りるとしたら、何に使うと思う?」
3人の答えが社長の1行目と同じなら、準備はかなり進んでいます。違っていれば、その違いが、借りたあとに起きるずれです。
書けなかった行に、借りたあとに止まる場所が出る
書き出すと、止まる場所が分かれます。
- 1行目が書けない:何のためのお金か、経営として決まっていない
- 2行目が書けない:使ったあとに何が変わるか、現場と話していない
- 3行目が書けない:返す原資を、営業・現場・事務の誰も受け持っていない
- 3人の答えがばらばら:社内の言葉がそろっていない
3行ともすぐ書けて、3人の答えも同じなら、金融機関への説明を考える段階です。
1か所だけ詰まるなら、そこから手を入れれば足ります。全部を一度に直す必要はありません。
借りる・借りないは会社ごとに違う。ただ、社内の言葉は先にそろえられる
借りるかどうか、いくら借りるか、どの制度を使うかは、会社の状況によって答えが違います。借入の条件や税金の判断は、金融機関や税理士など専門家の領域です。
HITOTASUが一緒に見るのは、その手前にある、使い道と返済の出どころを、営業・現場・事務の言葉でそろえる部分です。
自社だけで整理するのが難しいときは、一緒に整理する方法もあります。3行が書けたあと、その計画が現場で動き、成果が出るところまで進めることもできます。
いま借りるとしたら、何に使い、何から返すか。現場のリーダーに聞いたら、同じ答えが返ってきますか。
