満足している顧客が、一度も紹介してくれないことがある

「紹介で仕事が回っているんですよ」

中小企業の経営者からよく聞く言葉です。

ただ、続けて「去年の紹介は何件でしたか」と聞くと、すぐに答えが出ないことがあります。

数えてみると、紹介のほとんどは経営者本人が動いた案件でした。相手も、十年来の付き合いがある人に限られています。

この2年で取引を始めた顧客から紹介が出たことは、一度もない。

満足はされています。クレームもありません。

それでも、紹介は増えていません。

よくあるケースとして、こんな場面があります。

長く付き合いのある顧客が、同業の知人から「どこかいいところ知らない?」と聞かれます。

顧客の頭には、すぐにあなたの会社が浮かびます。前の案件では、無理な納期にも対応してもらいました。

ただ、口から出たのは「まあ、いいところはあるんだけどね」の一言でした。

何をしてくれる会社なのかを、その場で説明できなかったからです。

会話はそのまま別の話題へ移りました。あなたの会社の名前は、一度も出ていません。

「いい会社だよ」は、褒め言葉ですが、紹介の材料にはなりません。

紹介が起きているかどうかは、3つのサインに出る

口コミや紹介を増やそうとすると、紹介の依頼状やGoogleの口コミ依頼といった施策の話になります。どれも手段としては成立します。

ただ、その前に、いま紹介がどこで止まっているのかを現場のサインで確かめたほうが早いことがあります。

見るのは次の3つです。

- 紹介の出どころが、経営者本人に偏っていないか
- 紹介で来た人が、自社の何を期待して来ているか
- 顧客が自社を話すとき、業種名以外の言葉が出てくるか

1つ目は、紹介が個人の関係に乗っているのか、会社の説明に乗っているのかを分けるサインです。

経営者経由の紹介しか出ていない会社は、顧客側に説明の材料がありません。

2つ目は、顧客に届いている言葉の中身が分かるサインです。

紹介で来た人が「何をやっている会社かは聞いていない」と言うなら、届いていたのは社名だけです。

3つ目は、顧客の中にある言葉そのものです。

「建築の会社」「システムの会社」で止まるなら、同業他社と置き換えられる説明しか持たれていません。

満足は顧客の中で完結しますが、紹介は誰かに話さないと成立しません。

サインが示しているのは、顧客が使える言葉を用意していないこと

3つのサインに共通しているのは、評判の悪さではありません。

顧客が、あなたの会社を他人に説明する言葉を持っていない、という状態です。

紹介は、満足が積み上がった先に自然と起きるものではなく、顧客が自分の口で誰かに話す行為です。

話すには材料が要ります。「誰の、どういう場面の困りごとに強い会社なのか」という短い一文です。

この一文を、多くの会社は社内には持っています。営業資料にも、HPにも書いてあります。

ただ、書いてあることと、顧客の口から出ることは別です。

良い仕事をした案件ほど、その中身は社内の記憶に残ります。

顧客の側に残るのは「助かった」という感覚で、説明の言葉は残りません。

紹介が生まれている会社は、この一文を取引の途中で顧客の側に残します。

打ち合わせの終わりに、何が決まっていない状態からの立ち上げだったかを振り返る。報告書の1行目に、対応した課題を書く。

やっているのは、成果の確認と同時に、顧客が後で使える説明をそろえる作業です。

顧客の答えは、4通りに分かれる

顧客が使える言葉になっているかは、社内では判断できません。

社内で「うちの強みは何か」を話し合うと、言いたいことのほうが先に出ます。

確かめる相手は顧客です。

直近1年で取引のあった顧客を1人選び、次に会ったときにこう聞いてみてください。

「もし知り合いにうちを紹介するとしたら、どんなふうに説明しますか」

返ってきた言葉は、言い直してもらわずそのまま書き留めます。

読み方は4通りです。

- 業種名だけが返ってくる:顧客が使える言葉がない
- 前回の案件の話だけが返ってくる:1件分の言葉はあるが、その1件を超えて広がらない
- 困りごとの種類で返ってくる:他人に説明できる言い方が成立している
- 3人に聞いて3人とも違う:社外へ出ている説明が、担当者ごとにばらついている

用意していない会社ほど、社内では「言わなくても伝わっている」と思われています。

顧客に使ってもらう一文は、社内でなく顧客の表現から作る

聞き取った言葉がそろったら、顧客に使ってもらう一文を決めます。

このとき、社内の議論だけで作ると、どうしても事業内容の説明に戻ります。

使うのは、顧客が実際に口にした表現です。

「急に人が抜けたときに手が打てる」「社内で決まらない話を、外から整理してくれる」。

こうした言い方は自社では思いつきにくく、紹介の場ではそのまま通じます。

決めた一文は、提案書の表紙や打ち合わせの冒頭など、顧客が繰り返し目にする場所に置きます。

営業担当が複数いる場合は、その一文を全員が同じように話せるかを確認します。

ここがそろっていないと、担当ごとに違う説明が外へ出ていきます。

今週、顧客1人に聞くところから始める

今週中に、直近1年で取引のあった顧客を1人だけ選んでください。

次に会ったときか、電話の最後に、先ほどの質問を1つだけ投げます。

返ってきた言葉が、いま社外に出回っているあなたの会社の説明です。

それが想定と違っていても、顧客が間違えているわけではありません。用意していなかっただけです。

どの言葉を使ってもらうかは、顧客層や取引の入り方で会社ごとに変わります。社内だけで決めると、自社が言いたいことに寄ります。

自社の言葉を自社で選び直すのが難しいときは、外から一緒に整理する方法もあります。

あなたの会社の名前は、顧客の会話の中で、どんな言葉と一緒に出ていますか。