会社案内は新しくなったのに、折り返しの速さは変わっていない
金曜の夕方、現場から戻った担当者が、机の上のメモを見て小さく息をつきます。
「これは月曜でいいか」。
折り返しの電話を1本、翌週へ回します。
その会社のパンフレットには、大きな文字で「即日対応」と書かれています。
刷ったのは半年前です。
社長は、その言葉を嘘だと思っていません。実際、社長宛の電話は今日中に返しています。
ただ、守っているのが社長ともう1人だけなら、顧客が受け取る印象は担当者によって変わります。
ブランドは、パンフレットの中ではなく、この折り返しの1本で決まっていきます。
ブランディングが空回りするのは、言葉を「足した」まま終わるから
中小企業がブランディングに着手するとき、入口はたいていロゴ、HP、会社案内です。
「誠実」「スピード」「現場密着」といった言葉が並び、経営者も納得します。
ところが半年経っても、問い合わせの数も内容も変わりません。
増えたのは外に出す言葉だけで、現場の動き方が1つも変わっていないからです。
顧客が見ているのはパンフレットではなく、折り返しの1本です。
先にやることは、言葉を足すことではなく、いま掲げている言葉のうち守れていないものを見つけることです。
よくあるケースとして、従業員30名ほどの工事会社で考えてみます。
社長は「うちの強みは、とにかく連絡が速いこと」だと考えています。
一方、現場の担当者は朝から夕方まで現場に出ていて、折り返しは翌日になることが多い。
本人たちに悪気はなく、「いま現場を止めるほうが顧客に迷惑だ」と判断しています。
どちらの言い分にも理はあります。
ただ、顧客は社長の対応と担当者の対応を分けて記憶しません。
速い会社なのか、遅い会社なのか、どちらかで覚えます。
掲げた約束が守られない原因は、たいてい3つに分かれます
現場で見ていくと、原因は次の3つのどれかに当たります。
・約束の範囲が決まっていない(「即日対応」が、電話の折り返しなのか見積もりの提出なのか曖昧)
・守れる人数を超えている(経営者と一部の社員しか実行できず、人が増えても再現しない)
・守れなかったときに何も起きない(遅れても誰も気づかず、記録も残らない)
言葉を決めたのは経営で、実行するのは現場、そのあいだをつなぐ運用が抜けている状態です。
デザインや制度を増やしても、この抜けは埋まりません。
守れない約束を掲げた分だけ、現場は会社の言葉を使わなくなります。
現場が使わない言葉は、顧客にも届きません。
[代表確認:会社案内の言葉と現場の対応がズレていた支援先の場面があれば、2〜3行追加してください]
守れない約束を放置すると、値引き以外の説明ができなくなります
放置した会社で最初に表面化するのは、価格の話です。
顧客から見て他社との違いが体験として残らないため、比較の材料が価格しか残りません。
次に出るのが採用です。
面接で「御社らしさは何ですか」と聞かれたとき、答えが会社案内の引き写しになります。
入社後に現場の実態とのズレが見え、早期の離職につながります。
そして紹介が減ります。
紹介は、顧客が自分の言葉で他社へ説明できたときに起きます。
説明できる中身がなければ、満足していても紹介にはなりません。
営業の数字が落ちている原因が、採用や現場の運用側にあることは珍しくありません。
この1週間で守れなかった約束を、3つ数えてみる
いきなり言葉を作り直す必要はありません。
まず、いま掲げている言葉が守られているかを数えます。
・会社案内・HP・提案書から、顧客への約束にあたる言葉を書き出す
・この1週間で守れなかった場面を、その言葉ごとに数える
・守れなかった回数が多い言葉から順に並べる
回数が多い言葉ほど、現場では約束ではなく願望として扱われています。
この数え方は、会社案内を刷り直すときや期初のたびに使えます。手元に残しておくと、言葉が増えすぎたときの歯止めになります。
ここで大切なのは、担当者を責めないことです。
守れないのは能力の問題ではなく、範囲が決まっていないか、人数が足りていないかのどちらかです。
[代表確認:この確認を実際に行ったときの経営者の反応があれば、2〜3行追加してください]
「やらないこと」を決めて、はじめて言葉は現場に残ります
守れる約束に変える方法は、2つあります。
1つは、範囲を狭めることです。
「即日対応」を「電話の折り返しは当日中。見積もりは3営業日以内」と言い換えるだけで、守れたかどうかを判定できるようになります。
もう1つは、やらないことを決めることです。
「見積もりの当日提出はしない」「深夜の緊急対応は受けない」と決めておくと、断る理由が担当者の判断ではなく会社の基準になります。
やらないことが決まっていない会社では、断る役目が毎回その場の担当者に降りてきます。
そして、断れなかった1件が、他の顧客への約束を壊します。
目安として、1週間で3回以上守れなかった言葉は、いったん下ろすか、範囲を狭めるかのどちらかにします。
言葉を増やすより、守れない1つを下ろすほうが、現場は先に変わります。
外注も、新しい発明も要りません。
今日できること
今日、会社案内かHPを開いて、自社について書かれている言葉を声に出して読んでみてください。
そのうち、「今週も全員が守れた」と言い切れるものに丸をつけます。
丸がつかなかった言葉は、まだ約束ではなく願望の段階にあります。
どれを約束に変え、どれを一度下ろすかは、会社によって違います。
人数、業種、経営者がどこまで現場に入っているかで、守れる範囲が変わるからです。
自社だけで線を引きにくいときは、現場の対応を一緒に見ながら、守れる約束の範囲を整理する支援もしています。
あなたの会社の言葉は、今週、現場で何回守られたでしょうか。
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